8月24日、消費者庁がダークパターンの規制を強化する方針を示しました。
これに伴い、Webサイトやアプリを運営する企業にとって、ダークパターンへの理解と適切な対応の重要性は、今後さらに高まっていくと考えられます。
この記事では、ダークパターンとは何か、具体的な事例を交えながら、企業にとってのリスクや、ダークパターンを生み出さないために意識すべきポイントについて解説します。
ダークパターンとは
『ダークパターン』とは、主にWebサイトやアプリなどのデジタルデバイスにおいて
「運営企業にとっては利益になるが、ユーザーにとって不利益になるような行動に向けてユーザーを誘導するようなデザイン」のことを指します。
デザインの悪用
デザインには、人の心を動かし、行動を促す力があります。
行動経済学の用語に「ナッジ(Nudge)」という概念があります。これは「〜〜しなさい」と直接的に強要するのではなく、自然にユーザーの行動を促すような工夫のことです。
たとえば、コンビニでレジ前の床に足跡のマークを置いておくと、自然とその位置に並ぶようになる……といったデザインもその一例です。
こうしたデザイン上の工夫がもたらす力は、正しく使えば、ユーザーにより良い体験を提供することにつながります。しかし、この力を悪用したり、ユーザーへの配慮が不足したりすれば、
意図しない選択や不利益につながる行動へ誘導してしまう可能性もあります。
企業へのリスク
消費者庁からアナウンスがあったように、今後、何らかの規制や罰則の対象となる可能性があることは、企業にとって一つのリスクです。しかし、それ以上に、ユーザーからの信頼を損なう可能性があることをしっかりと認識しておく必要があります。
今後、Webサイトやアプリのデザインがよりユーザーに対して誠実なものへと見直されていくなかで、ダークパターンを採用し続けているデザインは、相対的に目立ち、企業やサービスに対する印象を損なう可能性もあります。
大切な顧客から信頼してもらえる存在であり続けるためにも、自社のWebサイトやアプリに、ユーザーの誤解や意図しない行動を招くようなデザインがないか、改めて見直してみましょう。
ダークパターンの具体例
現時点では、消費者庁から「どのような事例がダークパターンに該当するのか」を正式に示した資料は発表されていないため(※)、
本記事では、OECD(経済協力開発機構)が提唱しているダークパターンの分類と代表的な事例をピックアップして紹介します。
※ 消費者庁が方針を検討するにあたって作成された資料はいくつか存在しますが、未確定な情報の流布を避けるため、現段階では本コラムで取り上げない方針としています。
行為の強制
機能や情報へのアクセスのために、会員登録や個人情報の提供、あるいは繰り返し利用など、企業が望む行動をとってもらうために本来必須ではないアクションを強制するデザインです。
具体例
登録の強制: 記事の閲覧だけなら会員登録は不要なのに、本文の途中に会員登録導線を配置し、あたかも続きを読むのに会員登録が必須であるかのように誤認させるなど。
開示の強制: メールマガジンの購読の登録なのに、住所や性別や職業など、本来不要なはずの情報を入力させるなど。
「開示の強制」の例などは「マーケティングデータの収集のために性別も登録させる」というようなケースが一時期はよく見られました。不要な情報を入力させていないか、改めて検証してみましょう。
インターフェース干渉
デザインの視認性・操作性をコントロールして、運営側にとって都合の良い選択へ過剰に誘導するデザインを指します。
具体例
隠された情報: 重要な情報を見えづらくする。「サービスの解約時に追加費用がかかる」などの情報が「その他の注意事項」リンクを表示しないと閲覧できないなど。
偽の階層構造: 企業にとって都合のよい選択を目立つようにする。高額なプランを目立たせて、低価格なプランを必要以上に控えめな表現にすることで「高額なプランを選ぶのが絶対に正しい」と誤認させるなど。
もちろんユーザーにとってメリットがある形でデザインを調整することは重要ですが、それがユーザーを騙す形になっていないかは注意しましょう。
執拗な繰り返し
企業が望む行動をユーザーが断ったにも関わらず、同じ選択を繰り返し迫り、ユーザーが「面倒だから同意しよう」と根負けするまで止めないデザインを指します。
具体例
執拗な繰り返し: メルマガ購読を一度断ったのに、ページを移動するたびにメルマガ購読を勧めるポップアップが表示される。
ユーザーにとってメリットのある選択肢であれば何度か告知のチャンスを作ることは必ずしも悪いとは言えませんが、ユーザーがそれを回避する選択肢も必ず作るようにしましょう。
妨害
退会・解約・他社製品との比較など「企業側にとって嬉しくはないがユーザーはやりたいと思っている操作」を、意図的に手間のかかるものにして実行を困難にするようなデザインを指します。
具体例
解約しにくい: 「解約する」というボタンの所在がわかりづらかったり、ボタンを押した後のフローがわかりづらくて解約を完遂できない。
価格比較困難: 価格の体系をあえて競合サービスよりも複雑にしたり表記をわかりづらくしたりして、他社との単純比較をしづらくする。
基本的には、企業にとってリスクとなる行動であってもユーザーには自由に選択する権利があります。デザインによってそれを阻害しないようにしましょう。
こっそり
ユーザーに明示せずに、ユーザーにとって不利益になる情報や操作をこっそり仕込むデザインを指します。
具体例
こっそりカートへ: ECサイトなどで商品をカート追加した際、関連するオプションなどがデフォルトで選択済みの状態になっており、ユーザーが気づかないと当初の想定より高額な購買になってしまう。
隠れたコスト: 運送費用や手数料など、商品の購入に伴う追加のコストを購買直前まで明示しない。
特に上記の例のように購入に関して必要事項を明記しない場合、ユーザーにとって想定外の不利益となる場合があります。他社と比較して高く見えるような場合でも、誠実に情報を開示しましょう。
社会的証明
掲載されている情報の信頼性を高めるために、社会やユーザーからの声を誇張したり偽装したりするデザインを指します。
具体例
アクティビティメッセージ: 「〇〇人が今このページを見ています」という表示をしているが、実際にはその数値は取得していない。
嘘の口コミ: サクラやAIによる偽の口コミを掲載し、ユーザーの支持を得ていると誤認させる。
「顧客満足度No.1」のような社会的信用を客観的に表現する要素などもそうですが、本当のことを言っていれば問題ないものの、嘘や誇張が混ざるとダークパターンとして扱われるため気をつけましょう。
緊急性
時間や数量に限りがあることを必要以上に強調し、ユーザーを焦らせて判断を誤らせるデザインを指します。
具体例
在庫わずか: 「残りわずか」「あと1点」のような在庫表記を必要以上に目立たせたり虚偽の情報を掲載したりして、ユーザーの行動を必要以上に促す。
カウントダウンタイマー: 「残り05:00で終了」のようなカウントダウンタイマーを、本来必要がないのに表示する。
参考:総務省ホームページ 『便利なインターネットに潜む罠 -ダークパターンに気を付けよう-』を参考に作成
ダークパターンへの対応
たとえば、先ほどの例には「会員登録の強制」がありましたが、だからといって「会員登録機能そのものをなくせばよい」というわけではありません。
重要なのは、機能の有無そのものではなく、ユーザー自身が納得したうえで選択できる状態になっているかという点です。
ダークパターンが生まれる理由
そもそもダークパターンは、「ユーザーを騙してやろう」といった加害的意図がある場合にのみ生じるものではありません。
-
マーケティング上の都合
例:もっとサイト経由の問い合わせを伸ばしたい・・・ -
ユーザビリティ上の配慮
例:この情報をプッシュした方がユーザーにとって便利なのではないか・・・ -
社内コミュニケーションの都合
例:ここにこの機能を設けていた方が説明がしやすい・・・
このように、サイトの成果を伸ばそう・プロジェクトを円滑に進めようとした際の工夫が、結果的にユーザーの不利益を招いてしまうこともあります。
また、こうしたすれ違いが起こる原因の一つとして、「特定の視点に偏った意思決定をしてしまうこと」が挙げられます。
- 数字が上がればいいということを考えていた結果、実際に利用するユーザーの心象を無視してしまう
- あるユーザーの利益のことだけ考えて、別のユーザーの致命的な不利益を生んでしまう
- 社内の話の通しやすさを優先してしまい、ユーザーがどう感じるかという視点が抜け落ちてしまう
上記のような判断によって、ユーザーを陥れる意図がなくても、結果としてユーザーの不利益を生み出してしまうことがあるのです。
ダークパターン対応の注意点
ダークパターンへの対応において難しいのは、
「何がダークパターンに該当するのか」という線引きが、必ずしも明確ではないということです。
上記で「マーケティング上の都合を優先していたらダークパターンになってしまった」というシナリオを紹介しましたが、それは裏を返せば「マーケティングの観点では、必ずしも間違った判断ではない」ということでもあります。
こうした工夫を一切やめてしまえば、せっかくの情報がユーザーに届かず、逆にユーザーの不利益につながる可能性もあります。また当然ながら、企業側の利益をすべて無視するようなことも望ましくはありません。
つまり「ダークパターンとなる可能性があるデザイン」を「ダメらしいのでサイトから全て消してしまおう」と判断すると、ユーザー側も企業側も損をする場合があります。
判断のつかないデザインを形式的に排除していくのではなく、
適切な文脈・適切なデザインをユーザーに届けられるような仕組みと意識を整えることで、判断基準を明確にしていくのが望ましいといえるでしょう。
ダークパターン対応で意識すること
では、ダークパターンを生み出さないために私たちは何を意識したらよいのでしょうか。
後々消費者庁から何らかのガイドラインが発表される可能性はありますが、目下必要なのは以下のような心がけです。
1. ユーザーのニーズやユースケースを把握する
前述の通り、何がダークパターンになるかは文脈に左右される場合があります。同じ「会員登録への誘導」であっても、ユーザーにとって本当に必要な機能を必要なタイミングで促しているのか、運営側の都合を押し付けているだけなのかによって評価は変わってきます。
この判断を正確に行うためには、以下のようなユーザーに関する情報を正確に把握しておく必要があります。
- ユーザーが誰なのか
- ユーザーは何を達成したくてこの場所に訪れたのか
- ユーザーは何をしたら喜び、何をしたらストレスを感じるのか
より具体的なアプローチとしては、以下のようなものがあります。
- ユーザビリティテストを通じて実際の反応を確認する
- カスタマーサポートに寄せられる声を収集し、分析する
- カスタマージャーニーマップによってユーザーの行動フローを整理し、各フローでユーザーが望むことを明確にする
こうした施策によって、ユーザーの心情と企業の狙いのズレに早い段階で気づくことができます。
2. ユーザーの意思を尊重する
ユーザーには選択の権利があり、こちらが「良い」と考えていることであっても、ユーザーにとってそうとは限りません。
例えばFaceIDやパスワード連携などの機能は便利ですが、無断でカメラを起動して顔を撮影したり、勝手にパスワードを保存してあらゆるサイトで利用したりすることがあればどうでしょう。いちいち確認される手間が省けて便利と感じるユーザーもいるかもしれませんが、そのことで不安に思うユーザーも少なくないはずです。
また、運営企業が推奨しているプランがあったとしても、ユーザーにはそれよりも低機能ながらコストパフォーマンスに優れたプランを選択する自由があります。もちろん「これが推奨だ」ということをデザインでわかりやすく明示する程度であれば問題ありませんが、推奨プラン以外のものを選びたくなくなるような極端な表現は避けましょう。
デザインレビュー時には、マーケティング戦略の視点だけでなく、以下のような判断軸を設けることも重要です。
- ユーザーがこちらのおすすめの機能をスムーズに断ることができるようになっているか
- ユーザーがこちらの提供する商品・サービスを利用せず、競合に乗り換えることができるようになっているか
- ユーザーが開示したくない情報・行いたくないアクションを強制していないか
- ある選択肢が別の選択肢に対して極端に優れている・劣っているというような表現になっていないか
こうした判断軸を設けることで、ユーザーの意思にも配慮したデザインが実現できます。
3. 嘘・誇張・隠蔽をせず、誠実な情報提供をする
当たり前だと思われるかもしれませんが、嘘や誇張・隠蔽を行わないことも重要です。
商品やサービスの魅力を伝えるような印象的なキャッチフレーズやインパクトのある数値を掲載することは有効なのは間違いありません。しかしそのメリットを追いかけるあまり「嘘の実績値を掲載する」「安易に『最高のサービス』のような表現を用いる」といった行為は推奨されません。短期的には効果があるように見えても、いずれユーザーの信頼を損なうことになります。
特に最近は、AIを利用して「検索システムなどをハックして短期的には最大の効果を得られるが、いたずらにユーザーの閲覧意欲を掻き立てたり、ユーザーの行動を誘導したりするデザイン」を採用している広告やWebサイトも散見されるようになりました。これは、これまで広報職の方々やデザイナーたちが培ってきた倫理観を踏襲せずともコンテンツを量産できるようになった、技術進歩の裏返しとも言えるでしょう。
実はこうした「非倫理的なAI活用」については、AIサービス自体や各種プラットフォームのポリシーによって規制の対象になっているケースも増えていますし、それ以前から質の低いコンテンツは検索エンジンなどから評価されにくいような仕組みも整えられています。
- 数値を表示する場合は、ちゃんとその根拠を示せるか
- 自社の強みや商品のメリットを表示する場合は、誇大表現になっていないか
- ユーザーや社会からのフィードバックを掲載する場合は、嘘になっていないか
- 購買などの重要な選択肢に関して、判断材料になるような情報を隠していないか
こういった点を意識し、小手先のテクニックに走らない、誠実な情報提供を心がけましょう。
4. ルールを明確にする
ここまで説明してきたことは抽象的で、担当者が変わったり複数の制作ベンダーが関わったりすると維持が難しくなることが想定されます。こういった事態を避けるためには、プロジェクト内のルールを明確にすることが望ましいです。
- 成果物のチェックフローを明確にする
- 文言やデザインについてのガイドラインを明確にする
こうした施策によって、デザイン品質を保てるような仕組みを整えられると理想です。
まとめ
ダークパターンは、必ずしも悪意から生まれるものではなく、マーケティングやユーザビリティ、社内事情へといった、自然な工夫の積み重ねから生まれてしまうことがあります。
だからこそ「これは本当にユーザーにとっていいものになっているか?」ということをプロジェクト全体で意識できるような意識と仕組みを整えることが重要になってきます。
今回の消費者庁のアナウンスは、こうした姿勢を見直す良いきっかけになるはずです。
規制や罰則への対応ももちろん重要ですが、何よりユーザーとの信頼関係を長期的に築いていくためにも、自分たちが運営するWebサイトのデザインを改めて見直してみてはいかがでしょうか。
ダークパターンにつながる可能性のあるデザインや表現についても確認できます。
マイクロウェーブクリエイティブでは、専門家がWebサイトを定性的に診断する「ヒューリスティック評価」サービスを提供しています。
ユーザビリティ上の課題はもちろん、ダークパターンにつながる可能性のあるデザイン・表現や設計についても検証できますので、お気軽にご相談ください。
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この記事の著者

マイクロウェーブクリエイティブ UXグループ
成果を生むウェブサイトの基盤となる画面設計やUXデザインを担当するチームが、UI/UXや分析・戦略に関する情報を提供します。




